「どしたの菫?」

入学してからすぐに仲良くなった、同じクラスの亜希ちゃんが話しかけてきた。


「亜希ちゃん、私、恋した」

「は?えっ嘘?誰に?」

目を丸くした亜希ちゃんは興味津々といった様子で私をじっと見た。


「……だれ?」

「えっ、名前だよ。名前」

昨日の記憶を巡らす。あれ……?


「名前?名前は……」

「ん?」

恋バナ好きの亜希ちゃんは、楽しげに私の言葉を待っている。


「……知らない」

「はぁ?」

なんということだ。先輩の名前、聞き忘れてた。なんでこんなに大切なこと忘れるかなぁ。

「菫、あんた名前も知らない人に恋したの?」

「だって、一目惚れなんだもん。あっ、でも一つ上の先輩ってことは分かってるよ。あとは、お花が好きで……」

「情報それだけ?」

「えっと……それから、それから……横顔が綺麗。……あれ?それぐらいしか知らないや」

「菫、あんたねぇ」

亜希ちゃんは呆れたようにため息をついた。