「サキちゃん、どうして、ここに?」

「テニス部の部活中なんだけど、体育倉庫に備品を取りに行くところで、ちょうど通りがかったの。そんなことより、ツムギちゃん、痛くない? 大丈夫?」

 私はおでこを押さえたまま、答えた。

「大丈夫、大丈夫」

 そのとき、走ってくる足音が聞こえた。

「小山、ゴメン! オレが相手チームのボールを思いっ切りカットしちゃったから!」

 ハヤト君だった。慌ててる。

「たんこぶ、できちゃってる」

 サキちゃんは、自分のハンカチを手洗場で濡らすと、私のおでこに優しく当ててくれた。

 ハヤト君の後から様子を見に来てたバスケ部の男子たちが、その様子を見て、コソコソ話し始めた。

「いいなぁ。オレも、丸田さんに優しく手当てされてみてぇ」
 
「丸田さんって、マジ、天使」

 地味な美術部員なのにわざわざ外に出て来て、こんなに目立っちゃって、めちゃくちゃ恥ずかしい。

「サキちゃん、ありがとう。ハンカチは洗って返すね。私、スケッチしなきゃだから、もう行くね。2人も部活に戻って」

 私はその場からそそくさと逃げた。そして、元の場所に帰ってくると、スケッチブックに顔を埋めた。