「おまえ、恥知らずって意味わかる?」
ジョンはいきなり立ち上がると、手にしたタバコを灰皿に弾いた。 そして、それ以上なにも言わずにニーナに近づく。

彼女は背の高いジョンと並ぶと小さく見えた。 ニーナは隅に追いつめられ、 拳を握りしめて息を潜めた。 もう後戻りできない。

男の独特な匂いがニーナの鼻先に漂い、 彼女の顔全体が赤らむほど刺激した。

「私はあんたが思っているような人間じゃないわ!」
ニーナはと怒鳴り、ジョンを睨みつけた。

けれども、今しがた彼女に近づいたとき、ジョンは何かがおかしいことに気づいた。 ニーナはもっと近づきたくなるような不思議な香りを纏っていたのだ。

余裕を失って、ジョンの表情がさっと変わる。

香水のせいで、ニーナの体も彼に向けてしなやかになった。 それはまるで、香水が二人を操り人形のごとく弄んでいるようだった。

「おまえの匂いか! 俺を焚きつけるのは!」
ジョンの額に青筋が立ったが、彼は怒りを抑え込んだ。 そして何も考えずにニーナをつかまえると、もはや彼女にもっと近くことしか頭になかった。

「やめて! 私……ねえ、 放しなさいってば! 私もう……」

彼女はすでに結婚していたのだ。

夫が誰なのか、どんな風貌なのかすら知らなかったが、婚姻届に署名して結婚してしまっていた。

けれども、ジョンはもうニーナのたわごとを聞き続ける気はなかった。 そして、なにも言わずにニーナに激しくキスをした。 ジョンの唇が彼女の唇に触れるや否や、彼の体は強張った。

案の定、ニーナの唇はとても甘かった。

「放して……」
彼女はジョンの胸を拳で叩きながら、すすり泣いた。

ニーナは意外と力があったが香りの影響はそれを上回り、ジョンをますます興奮させた。

彼は少し身を乗りだしただけのつもりだったが、ニーナはすっかり怯えて、顔が青ざめている。

ジョンが触れるとニーナの全身に電気が走り、彼女は黙り込んだ。

しばらくすると空が明るくなり、夜明けが近いことを告げていた。