「っ!」

 黒のスキニーパンツに、白いシャツを着て、その上から黒のテーラードジャケットを羽織っている姿はまさに昨日会った魔女。

 シャクリとリンゴを食べるしぐさまで同じ。


 ……ただ、時計塔のときのような恐怖すら覚える妖しい美しさはない。

 あれ? 髪が違う。


 昨日見た長い銀色の髪じゃなかった。

 今の彼は前髪が少し長めな短髪で、その色も黒い。

 前髪の左側の一部分が名残のように銀色をしていた。


 でも、それでも彼の美しさは変わりなくてわたしの鼓動は早まるばかり。

 その切れ長な目がわたしを捉えた瞬間、僅かに見開き細められる。

 その様子が昨日と同じで、わたしはまた言葉を失ってしまったように声を出せなかった。


「雪華? どうしてここに……」

 そう呟いた後、彼の艶やかな唇の口角が上がる。


「そうか、俺のものになる気になったか?」

 あまりにも妖艶なその笑みに、わたしはまた思考を奪われる。

 何を言われたのかもよく分からなかった。


 近づいてくる彼を魅了されたかのように見続けることしか出来ない。

 ドキドキ、ドクドクと自分の心臓と脈の音が大きく響いて聞こえる気がした。