「っ雪華!」

 彼は――ギンは、すぐにわたしを起こし抱き締めてくれる。

 嗅ぎ慣れた彼の匂いに、ホッと力が抜けた。


「大丈夫か? なにをされた?」

「だい、じょうぶ……。押し倒されただけ。まだ、何もされてない……」

 ギリギリだったけれど、実際には押し倒されただけ。

 それ以上になる前にギンが助けに来てくれた。


「本当か?」

「うん、寸前にギンが助けてくれたから……」

 そう言って、わたしは彼に笑顔を見せる。

 まだ恐怖は残っていて手が震えていたけれど、それでもギンが来てくれたから大丈夫だと伝えたかった。

 腕を彼の背中に回し抱き返していたから、震えは伝わってしまったかも知れないけれど。


「雪華……もう、大丈夫だ」

 わたしの震えに気づいたかどうかは分からなかったけれど、ギンはもう一度わたしを抱きしめて頭を撫でてくれる。

「ギンっ……」

 その優しさに張り詰めていたものを解いて泣きたくなってくる。

 でも、今はまだそんな余裕は無かった。


「ってめぇ……なんでこんなに早く来れた!? 今日は会合だって情報があったのに……」

 投げ飛ばされた杉浦が痛そうにしながらも立ち上がる。


 そうだ、ここはまだ敵地だ。

 安心していい場所じゃない。