芽衣子に避けられてしまった。

それは思いのほかショックなできごとだった。今まで、彼女は俺に対し拒否するような態度は一切取っていない。初夜のときすら、緊張に耐え身を任せてくれた。そんな彼女がはっきりと拒否をした。
抱き寄せようとしたら、俺を押し返してきたのだ。

俺ときたら情けなくも動揺し、ショックをごまかそうと必死に彼女の行動に理由づけをした。
具合が悪いのに触れたからだ。下心があるように感じたのかもしれない。妊娠中でナイーブな彼女の気持ちを考えなかったせいだ。
芽衣子は言い訳もせずにうなだれ、俺に謝り、眠ってしまった。

あの日以来、俺と芽衣子はしっくりきていない。
妊娠週数は進み、間もなく12週目、四ヶ月に入る。
芽衣子とは同じように暮らしているのに、俺は彼女にスキンシップを取れなくなっていた。彼女も笑顔でいてはくれるのに、目が合えばそれとなく逸らされてしまう。

ぎくしゃくとした生活はいつまで続くのだろう。このまま出産を迎え、忙しいだろう育児の日々になれば、彼女と話し合う機会は訪れないのではなかろうか。
その前に彼女と話を……。

そんなことを考えていたある日、俺は鉄二に誘われた。昼休みに鉄二から直接電話があったのだ。

『今日聞いたよ。おめでとうって言いたくてさ。あ、まだ親父には言っていないから安心してくれ』

その言葉で彼が芽衣子の妊娠を知らされたのだとわかった。

『芽衣子には断ったから、今夜は祝いで奢らせてくれよ。飲もう、な?』

相変わらずの強引な陽キャペースに巻き込まれ、俺はなんとなく了承してしまった。