「たっちゃん美味しい?」



「美味いよ」



「ちゃんと味わってるの?」



「骨身に染みてる」



「口は上手いんだから」



雪が舞い散る寒い朝。

暖炉の前のソファーで、淹れたてのコーヒーを飲む私と、すぐ上の兄・達也。

元は幼なじみ。

でも13歳の時に養子に出され、今は兄妹として暮らしてる。

世界にまで名を轟かせる【ホテルKOUKETU】のオーナーである実父。

3人の娘には跡を継ぐ事より求められた事……業界で勝ち残る為の政略結婚。

社長のポストは、従弟でも誰でも埋められる。

だから、創業当初からお世話になる【まとぶち銀行】次期頭取である子息・慧斗と、土地を多く持つ資産家であり、不動産会社を経営する我が葉山の長男・将也との結婚が、姉2人に言い渡された。

それぞれ、選ばれた相手と結婚するようにと。

でも、それでは安心は出来ないと、娘を欲しがってた葉山の母につけ込むようにして、三女の私は養子に出された。

ホテルの為だと、誰にも惜しまれずに。

そして今日、ついに来た慧斗さんと将也お兄様が選択する。

被れば慧斗さんが優先。

上手く決まれば、結婚の準備が早速始まる。