すぐに天界に帰るつもりだったが、思いのほか魔界の状況は芳しくないため私は魔宮に滞在することとなった。


「蓬莱。このまま天界へ戻らずに魔界で暮らしてはどうか?」


魔帝は私のことが気に入ったらしく、暇さえあれば私に会いに来た。


「いいえ。私は天界に帰ります。長くここに滞在はできません」

「なぜだ?」

「天女は魔界に長くとどまると魔気病になるからです。」

「…そうか。何か欲しいものはないか?」

「特にありません。民が健やかに暮らせることだけを願うばかりです」

「やはり天女は慈悲深いな。では…これを差し上げよう」


魔帝が渡したのは一輪の花だ。虹色に輝いている。その美しさは出会った時の延輝の瞳を思い出させた。


「綺麗」

「虹彩樹の花だ。私がそなたを想い作った花だ。この世で一輪しかないものだ。気に入ったか?」

「ええ」