部屋に入ると男爵がソファに座って待っていたが、こちらに気づくと立ち上がって両手を広げた。
「ゼレク、エオノラ! いやあ、こんなに大きくなって!」
 ずんぐりむっくりで人あたりが良さそうな笑顔を見せるホルスト男爵が明るく挨拶をしてくれた。よく考えると男爵と最後に会ったのは一年以上前だ。

 エオノラは軽く挨拶をした。隣に並ぶゼレクも仏頂面を引っ込めて柔和な微笑みを浮かべて男爵に握手を求めた。
「叔父様がこうして無事にエスラワン王国に戻られてほっとしています。元気そうで良かったです」
 ゼレクが男爵にソファに掛けるよう手で促すと、後ろで控えていた侍女たちが準備していた茶菓をテーブルの上に並べ始める。温められた小鳥柄の陶器のカップにはお茶が注がれ、ケーキスタンドには一口サイズのケーキが数種類出された。

 ゼレクの隣に座ったエオノラはちらりと彼を盗み見た。
 怒り出さないか冷や冷やしていたが、こちらの心配を余所にゼレクは男爵と和やかに世間話をしている。内心安堵するエオノラは、頃合いを見て視線をジョンへと送った。
 ジョンはこっくりと頷いて箱を運んでくると、男爵の前にそれを置く。
「叔父様、依頼されていたペリドットの確認が終わりました。凄腕の鑑定士に確認させたところ、こちらは呪われた代物ではないそうです」
 エオノラは石の音が聞こえる力のことを、家族と執事のジョン以外の誰にも教えていない。