少女は、仲睦まじく抱き合う男女を目の当たりにして頭が真っ白になった。
「――リックとアリア。これは一体どういうことなの?」


 それは今から十分程前に遡る。
 色素の薄い金色の髪を纏め上げ、青紫色の瞳に合うようにラベンダー色の生地を幾重にも重ねたオーガンジーのドレスを身に纏う少女――エオノラ・フォーサイスは婚約者を探していた。

 今日はエオノラの十七歳を祝う誕生日パーティーだ。
 庭師たちが丹精込めて造り上げた、早春の中庭では黄水仙が見頃を迎え、それを背景にオーケストラがしっとりとした旋律を奏でている。

 中央では十数人の招待客がテーブル席についてお茶を飲みながら歓談していた。
(もうすぐ時間なのに彼はどこに行ってしまったの?)
 エオノラが辺りを見回していると、胸元からチリチリと警告をするような短い音が聞こえてきた。胸に手を当てると、祖母の形見である柘榴石のペンダントの金具が取れかかっている。
 大事な形見を落としてなくしてしまったら大変だ。

 エオノラは婚約者を探すのを一旦切り上げて、別の装飾品と取り替えに自室へ戻ることにした。サロンを通り抜けて廊下へ出ると、階段を上がった先に自分の部屋はある。

 廊下を歩いていると、化粧室として設けていた応接室の扉が少しだけ開いている。
 人気(ひとけ)がしたのでゆっくりと近づいてみると、扉の隙間からは男女の抱き合う影が伸びていた。


 真っ昼間から、しかも自分の誕生日パーティーでいかがわしいことをするのは勘弁して欲しい。
 居たたまれない気持ちになりながらも、エオノラは意を決して部屋の扉を開いた。

「あのう、ここで何をして――」
 自分は決してやましくない。やましいとすればあなたたちだ! そう胸を張って乗り込みたいところだが生憎そんな気概はない。
 おずおずと部屋に足を踏み入れると、エオノラは絶句した。