「こちらこそ、当マンションのコンシェルジュ結城と申します、いつも東條様にはお世話になっております」

「挨拶はいいから、亜紀、部屋に案内するよ」

「失礼致します」

副社長とエレベーターで部屋に向かった。

部屋に入るなり、副社長は私の手を掴んで引き寄せた。

廊下の壁を背に動けない状態になった。

「副社長、冗談はやめてください」

「冗談なんかじゃない、亜紀を抱きたい」

「駄目です」

「どうして?僕は理樹みたいに婚約者もいないし、それに理樹は東條財閥の御曹司なんだよ、理樹と結婚することは大変なことだよ」

私は副社長の言葉に愕然とした。

もちろん婚約者がいるんだから、理樹さんと結婚出来るとは思っていない。

でも、ほんのちょっとおしゃべりしたり、食事をしたり出来たらと浅はかな考えをうちくだかれた。

理樹さんが東條財閥の御曹司だなんて。

身分の違いに足が震えた。

しかも私の父の会社は東條財閥の東條理三郎に倒産に追いやられた過去があった。