【要side】



「あー、やばい」



思い浮かぶのはひとりの後輩の笑顔。

初めて見た瞬間から、頭にこびりついて離れない。

こんな気持ちは初めてで正直驚いている。


たまたま女に誘われて寄ったファミレス。

そんな気ないんですって振りしても、本来の目的なんか見え見えで気持ち悪い。


おれをファミレスに誘うこと自体、舐められてるなって思ったけど顔は合格ラインだったから付き合ってやった。


おれの顔と体と家柄目当てなだけのくせにつまんねぇ話ばっかするし。


挙げ句の果てに「遊んでていいから彼女っていう特別の存在にして」なんて意味わかんねぇこと言ってきやがったから、イラついて帰ろうとした。

立ち上がったと同時に、小さな鈴の音のような声と背中に少しの違和感。


べつにブレザーくらい替えはあるし、そんなのはどうでもよくて。

とにかく目の前の意味わかんねぇ女へのイラ立ちが勝っていた。

名前も知らない女がキレたことにまた腹が立って追い払ってから、やっと頭を下げる女に視線を向ける。


小柄なその女はやわらかそうな髪を垂れるまで頭を下げているからより小さい。