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「はるとぉ~。聞いてるぅ~?今日は絶対プロポーズだと思ったのに、振るとか……ひどくないぃ~」

 千夏は酔っ払い陽翔にからんでいた。机の上にはワインの空瓶が一本あり二本目の口が開いたところだった。少し飲み過ぎだと陽翔に注意されたが、千夏はそれを聞き入れず開けたワインをグラスに注ぐ。

「もう、はると飲んでる?今日は朝までつきあってもらうんだからねぇ~」

「それは良いですけど……」

「陽翔くん、私の何がいけないと思う?私って魅力が無い?」

 アルコールで上気した頬に潤んだ瞳で千夏は陽翔にすり寄り、見上げた。すると陽翔の喉がゴクリと上下する。ゆるふわな部屋着からはだけた肩と、短いショートパンツから伸びた白く長い足が目に入り、陽翔は理性を失いかけていた。

 かなりやばい状況に陽翔は頭を左右に振り邪念を払う。それから陽翔は理性を保つため千夏から目を逸らし深呼吸を繰り返した。そこで千夏が追い打ちをかける。

「陽翔……」

 自分の名前を呼びながら見上げてくる千夏。

 瞳いっぱいに涙を浮かべ、サクランボのようなぷるんとした唇を挽き結び、泣くのを我慢している。

 そんな千夏を見つめ陽翔の喉が苦しげに「ぐっ……」となった。

「ホント私って可愛げがないよね。素直になれないし……。陽翔くんにも、私が強い女に見える?可愛くない?」

 陽翔は千夏の頬にそっと触れ、今にもこぼれ落ちそうな、涙の溜まった瞳を見つめ、微笑んだ。

「そんなことないですよ。千夏さんは、とっても可愛いですよ。とりあえず水を飲んで下さい」

 千夏は陽翔の優しい手のひらの感触と微笑みに、ドキンッと胸が跳ねるのを感じた。千夏はそれをごまかすように、水の入ったコップを受け取り全て飲み干し、ごまかしついでに、陽翔に話しかける。

「ぷはー。陽翔くん、きみは家事が出来て、かわいくて気がきくし、そうだ!陽翔くんを私のお嫁さんにする」

「えっ!ホントですか?嬉しいな。約束ですよ」

「うん。やくそく」

 千夏が小指を立てると、陽翔も小指を立て千夏の小指に絡めた。ドキドキと高鳴る胸をごまかすように千夏は歌った。

「指切りげんまん……指切った!!」

 小さい頃を思い出し指切りとした千夏は、そこで酔いが一気に回り記憶がプツリと途切れたのだった。