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『絢音は俺のだから』
 あんな意味深な言葉を、本人である私の前で言っておきながら、その後の虹磨さんに変化はなかった。

 あるとすれば、「堤!」と美和さんを呼ぶ割合が減り、その代わりに「絢音!」と私に仕事を振る回数が増えたくらいだ。
 美和さんには「虹磨さんに振り回される頻度が減って助かるわ!」と感謝の言葉をいただいたが、私はそのために雇われたバイトのはずだから。

 自分の小間使いだという意味で“俺のだ”と言ったのかな。
 そんなふうに考えを巡らせてみたが、会話の流れからすると、そうではない気がする。
 じゃあどの意味で? と考え直すけれどもわからない。堂々巡りだ。

 虹磨さんの態度は変わらないので、とりあえずなかったことにしよう、忘れてしまおうと思ったが……
 あのときの眼光鋭い虹磨さんの顔が、頭から離れない。思い出すだけで顔が赤くなる。