──メッセージ履歴から、知らぬ間に椿の名前が消えていた。

それに気づいたのは染からの電話に出たあとで、不思議に思ってメールしようかとも考えたけど、関わる必要はないのだと気づいてやめた。



染は「元気か?」って、わたしに尋ねてきて。

当たり障りのない会話をしたあと、「また電話する」と言って通話を終わらせた。



『花舞ゆ』のことも、ノアのことも。

わたしがどこにいるのかも、彼はまったく話題に触れなかった。染に番号を教えたのはノアだったと、それだけは言ってたけど。



「彼氏と喧嘩?」



「え?」



「……ちがった?」



ぼんやりしてたから、と。

杏子に言われて、ふるふると首を横に振る。ド派手なツインテールの彼女は現在先生に呼び出しを食らっているから、めずらしく静かな昼休みだ。




「彼氏じゃないなら、『花舞ゆ』の人たち?」



……杏子が深く聞いてくるなんて、めずらしい。

わたしがもともとみんなと親しい関係にあったことを、椿とデートした後の月曜日、ふたりには話した。



うっかり口をすべらせて椿とデートしたことが桃にバレたのがきっかけだけど、ふたりとも、真剣に聞いてくれて。

わたしと『花舞ゆ』の関係を、まわりには黙っておいてくれるらしい。



「……そんな感じ、かな」



「……はなびは、たまに不器用ね」



ぽつっと。

つぶやいた杏子の綺麗な黒髪が、さらりと揺れる。これでもしっかりしているつもりなのに頭を撫でられて、なんだか不思議な気分だった。



「もどりたいんでしょう?本当は」