ピンポーン、と家のチャイムが鳴る。

時刻を確認すれば、日を回って20分。いつもより10分ほど早いな、なんて思いながら玄関の鍵を解錠して、扉を開く。



「おかえり、ノア」



「ただいま。待ってた?」



「うん。待ってた」



マスクをして半分顔を隠したノアが、家の中へ身を滑り込ませる。

扉が閉まってから、彼はわたしのことをぎゅっと抱き締めた。



「お待たせ。……遅くなってごめんね」



仕事が終わるのが、0時ちょうど。

それなのにすぐに帰ってきてくれたことを思えば、遅いなんて思わない。ふるふると腕の中で首を横に振ると、ノアがわたしの額にキスを落とした。




……お酒と、甘ったるい香水の匂いがする。

彼は一応未成年だから、飲まないでとは伝えてるけど。仕事を考えると、飲まなきゃいけないタイミングとやらも、あるのかもしれない。



「ごめん、嫌だった?

はなびに嫌がられる前にシャワー浴びてくるよ」



仕事の話に、迂闊に口を出せない。

そう思って考え込んでいるのを、どうやら嫌がっていると勘違いしたらしく。ノアはわたしが否定する間もなく、お風呂へと向かってしまった。



「……べつに嫌がってたわけじゃないのに」



誰に聞こえるわけでもないのに、ひとりでそう呟いて。

玄関の鍵を施錠すると、先に寝室に入ってベッドで横になる。



ノアが仕事からここに帰ってくる日は、決まってご飯はいらないと言われるし。

手持ち無沙汰で椿とのトーク履歴を確認すれば、『朝11時に駅前集合』との連絡がある。



何度見返しても、書かれている日付は明日だ。

……せっかく明日は大学も休みだし仕事が遅いからって、ノアが来てくれてるのに。