「姉さん、いいですか?」
「え、ええ」
「あなたは静かにしていれば、それなりに見られた容姿なんですから」
「そ、それなりって、失礼すぎるわよ、オリヴァー」

〝弟のくせに〟なんて言いそうになって、ぐっと呑み込んだ。言ったところで、この無駄に頭の切れる4歳年下の弟に、口で勝てるわけがないことはすでに嫌というほど学習している。
(ううん。勝てないどころか、何倍もの口撃が返ってきて、精神的にメッタメタにされるだけだわ。ここは我慢するのよ、ジェシカ)
ちょっとしたイラつきを、手をぎゅっと握ることでひそかに解消した。

「いいですか、姉さん。姉さんが口にしていいのは〝ええ〟〝はじめまして〟〝ありがとう〟ぐらいの、あたりまえのやりとりだけです。それ以外はいりません。とにかく、おとなし……って、聞いてますか?」
「えっ?ええ、もちろん」

思わず、馬車の外に見えてきた煌びやかな城に釘付けになっていただなんて、口が裂けても言えない。あの城で今夜開かれる夜会には、一体どんな素晴らしい食べ物が並べられているかなんて想像したことも。

「どうせ、いつもの食い意地の張った妄想でもしていたんでしょう?」

なぜばれた?
我が弟ながら、この鋭さが怖い。

「図星ですね? 姉さんはわかりやすすぎるんです」

〝はあ〟なんて、失礼な溜息をこれ見よがしに吐いてみせた弟をジロリと見る。
悔しいことに、まだ14歳の未成年だというのに、成人済みの姉の私よりも年上の青年に見えてしまう。本当に同じ親の子かと思ってしまうほど、オリヴァーは容姿も言動も大人びている。
いつまで経っても、オリヴァーは私の可愛い可愛い弟だけれど、こういう時ばかりは憎らしくもある。

「姉さんのためなんですよ。姉さんには幸せになってもらいたいんです。そのために、こういう場でよい男性に見初められて……」

もとい。やっぱり、純粋に姉思いの可愛い可愛い弟だ。

「間違っても、前のようなことのないようにしてくださいよ」

前のこと……と言われて、なんのことかと考えをめぐらす。

「わかってますか? 初めて行った夜会のことを」

〝あっ!〟という姉の少々間の抜けた顔を見て、オリヴァーは眉間にしわを寄せた。
それもそのはず。ジェシカは初めて出席した夜会で、それなりのことをやらかしてきたのだから。