翌朝の事―――


「おはようございます。
 緋奈星さま」

「おはよう…」

あれから結局
燈冴くんはいつものまま普段通り。

朝食をテーブルに並べながら
優しく微笑む彼の瞳や表情からは
あの時の冷たさは感じられない。

その話には触れちゃいけない
内に秘めた“闇”…なのかな。

『普通に就職した』っていうのは、たぶん違う。
あえては聞かないけど
それだけはなんとなくわかる。



いつものように自分の席に座り
『いただきます』とバスケットトレーに用意されていたクロワッサンを一口食べていると、先に食べ終えていた父はわたしを待っていたらしく『来るのが遅い』と説教から始まり…

「緋奈星。
 来週から3日、県外の支店へ行きなさい」

あまりに突拍子もなく説明不足な命令の言い渡しをされた。

「支店…って、え?
 急に何、どういう事?」

言ってる意味がわからず
食べる手を止め呆然と父の顔を見るしか出来ない。

「お前はまだジュエリー(この業界)について知識も経験も浅い。
 本社で働いているだけで
 実際に店頭で手にしている社員や客の様子を知らない。
 接客やニーズ、想いなどを肌で感じるために支店に行きなさい」

「は、はぁ…」

父の言いたい事は理解したし
確かに大事だと思うから反対意見はないのだけど…
なぜまたそんな急に…。












※コンプラ的な問題のため”県外”と曖昧にさせて頂いております