わたし達それぞれがこれからの事で悩み明けた朝を迎え、休養していた父も退院。
燈冴くんと2人で迎えに行ったその足で
最初に向かったのは自宅ではなく会社だった。

社内の役員達は社長の退院と聞いてバタバタと忙しく動き回り慌ただしくしている中で、わたしも気持ち的に落ち着かなく、父に話せないだけにモヤモヤしていた。

「失礼するよ」

父の戻りを待っていたかのように朝早くから鮎沢社長は会社にやってきて、ズカズカと社長室のソファに腰掛け、その背後には沈んだ表情の鮎沢さんの姿もある。

「漣社長、退院おめでとうございます。
 お待ちしておりましたよ」

身体を心配する言葉なんて1つも掛ける事なく
まさに”要件のため”に訪問したのがすぐにわかり
わたしはそれだけでムカついてしまった。
無意識に険しい表情で眉間に皺が寄っていたらしく
隣に立っている燈冴くんに肩をポン…と叩かれ
『いけませんよ』と首を横に振って注意されて
ようやくハッとしたくらい。

「鮎沢社長、いろいろ迷惑を掛けてしまって申し訳なかった」

「いえいえ。
 私と漣社長の仲じゃないですか。
 何かあればいつでも仰ってくださいよ」

白々しい鮎沢社長にお茶を出す燈冴くんは
それでも冷静だ。