父の病室に慌てた様子で飛び込んできた鮎沢さんは
初対面の燈冴くんを見るなり『この人は誰?』と言いたげに、軽く首を傾げている。

燈冴くんはというと
何か《《悪い》》察しが働いたらしく
敵でも視るかのように鮎沢さんを凝視。

父は相変わらず涼しい顔をしながらお茶を飲んでいて、燈冴くんの隣にいるわたしは鮎沢さんとの間に挟まれ息を吸うのも居たたまれないくらいの緊張が走る。

どうしてこのタイミングでこの人が来たの。
面会謝絶だから、目が覚めたらこっちから連絡するって言ったのに。

「貴方は?」

と、尋ねる燈冴くんに対して

「そちらこそ」

と、質問返しする鮎沢さん。

これは何というべきなのか…
不穏な空気に覆われて殺気すら感じる。

「人に名前を聞く前に
 まずはご自身から名乗るべきなのでは?」

「それもそうですね、失礼致しました。
 (わたくし)は漣社長の秘書であり
 お2人の執事である真白、と申します」

喧嘩腰の鮎沢さんの挑発に乗らず
あくまで冷静に応対する燈冴くん。
これはこれでちょっと怖い気もするけど…。

「秘書に執事…?
 そんな話は1度も聞いてないな…」

『どういうこと?』とでも聞きたげに
わたしの方に視線を向けてくる彼。

それ、わたしじゃなくて父に言ってよ…