けれど、その日
燈冴くんの様子がいつもと違っていた――――


22時を過ぎた頃
いつも通りに父と一緒に帰宅。
普段なら父はお風呂
その間に彼は夕飯の準備をするのが日課なのに
今日は違う。

玄関に上がるなり重苦しく険悪な空気を漂わせ
眉間に皺を寄せ”近づくな”オーラ全開で
父の後を追うように2階へと消えていく彼に
『おかえり』すら言える雰囲気はなかった。

今朝は全然普通だったし
仕事で見掛けたときも表情だったり態度だったり
特に違和感を感じなかったのに…

もしかして仕事でトラブルがあった?
それとも父と何かあった?
そんな素振りはなかったと思うけど…
ダメだ、皆目見当もつかない。



盗み聞きは良くないってわかってる。

悪いと思いながらも燈冴くんのあの殺伐とした目つきが気になって、父の部屋の前で聞き耳を立て2人の会話を聴いてしまった。

そこにはとてもピリついた緊張感のある様子でーーー


『もう私には関係ない事です!』

第一声に聴こえてきた燈冴くんの感情が昂った怒声に、扉に耳を近付けていたわたしはビクりと体が震え、危うく顔をぶつかるところだった。

焦りにも似た必死な叫びにも思え
顔が見えないけれど、今の彼にはどこか余裕がないように感じる。