ある年。


秋のはじめ。







『着信あり』。




スマートフォンの画面に浮かぶ文字を見て、私、東野透子(ひがしのとうこ)はうんざりした。



透子(とうこ)さーん、お〜い!」

高くて華奢な声で名前を呼ばれて、私はスマートフォンを裏返して大学の食堂の白いテーブルに静かに置いた。


顔を上げると、幸村日向(ゆきむらひなた)の姿が遠くで見えた。


「日向ー!やっほー!」


手を大きく振ってみる。

大学生になって、2回目の秋。

入学するまではキラキラ輝いて見えていたこのキャンパスも、無駄にオシャレな食堂も、今ではすっかり慣れてしまって。

何もかも、くすんで見えてしまう。




日向は笑顔で近づいてきてくれた。




日向とはある共通の趣味があって。

そのことに気づいた私から声をかけ、友達になった。


同じ大学で、同じ学科。

本当は同い年だけど、日向は学年が1つ下。

私は地元が遠いから上京したけれど、日向は実家から通っているらしい。