【side 牙玖】





あー…。


ーーーーどういうことだ?



どうして、あの男が桜の家にいる。



無意識の内に歯を食いしばっていたのか、醜い歯軋りの音が響いていた。


はぁ…面倒臭すぎることになった。

いや、桜に関することに、面倒も何もないのだけれど、あいつが桜の周りを彷徨いていることが問題。



チッ…と舌打ちを1つ打ち、車に乗ってソファにドカンと座る。

抑えきれない苛立ちに、組んでいる腕を痕が残るくらいに締め付けた。



『君のお兄さんじゃないって何度も言ったの、忘れたのか?』



独占欲を隠そうともせず、そう言ったあいつの顔を思い出す。

俺は掠れた笑みを零し、鼻で笑い飛ばした。



「……こっちだってお前みたいな男、兄貴と思ってねぇよ」



思わず、前の座席を蹴り倒した。