メリル様はお強い方だ。
 決して心の弱さを表に出さない。
 本当は不安でたまらないはずなのに、使用人達の前では心配させないように気丈に振る舞っている。

 それは婚約してからずっと伯爵夫人としてあるべき姿を学んで来た証でもある。
 女性に大切な礼儀やマナーだけではない、貴族としての立ち居振舞い、民への態度、全てに至る。

 長年、ウォーカー伯爵家で執事をしている私はその日々を間近で見て来たのだ。

 これが貴族令嬢の姿でなければ、何と言おう。

 他所の令嬢がどんな日々を過ごしているのか、ウォーカー伯爵家しか知らない私にはわからない。
 それでもこれだけは言える。

 あのジョルジュ卿の婚約者、確か名前をアイリス嬢と言っただろうか。
 彼女には一度お会いしただけで、どんな人間かについてはカークス様よりチラと聞いただけだ。

『静かで控えめな女性だよ。 それに思わず守りたくなるくらい、弱々しいんだ』

『カークス様、その方はジョルジュ卿の婚約者様なのですよね』

『あぁ』

『ならば、あまりそのような……』

『わかっているさ』

『メリル様を悲しませるような事だけはお止め下さい』