隣室から出る時、婚約者はベッドに伏したまま起き上がれなかった。
 慣れない営みは彼女にとって、何度経験しても苦痛でしかないはずだ。

 正直言って、どれだけ彼女を抱いても俺の奥には響かない。 まるで外国語を聞いているようなのだ。

 俺の求めには従順に応じるのに、その表情は決して心を許してはいない。 俺も同じく、心を許してはいないのだが。

 それも、ごく当然の事だ。
 婚約者であっても、恋人ではないのだから。 恋をした相手ではないのだから。

 彼女の想い人は別にいる。
 その想い人の為に子供の頃に決まった婚約を解消……。

 なんて、そんなの出来はしない。

 これは互いの家同士の取り決めだから。
 我が伯爵家と婚約者の子爵家との間の。
 俺が十歳、彼女が七歳。
 庭に咲く色取り取りの薔薇が鮮やかな季節だった。