誰かの声がした。
 誰かが月明かりのバルコニーへと続く扉を叩いた気がした。

 こんな真夜中に、そんなはずないのに。
 カークス様はもうずいぶん前に、ご自分の部屋へと戻られて休まれているのに。

 なのに、誰かが私を呼ぶ。

 起きて確かめたいのに、身体が動かない。
 心臓の音は聞こえるのに目が開けられない。
 先ほどまでカークス様に愛された身体が怠くて。

 あぁ、でも心地良い怠さだ。

 きっと熱すぎたせいだ。
 このままこの怠さを味わっていたいのに、誰かの声が邪魔をする。

 そうはさせない、と私の名を呼ぶ。

『メリル様』

 誰……?

『メリル様』

 私を呼ぶのは誰……?