■ 第4話

 ヴィラム殿下とルイーナ様がやって来た翌日、セローナでは町中が新しい聖女と王太子殿下の話題で持ちきりだった。学校でもみんなその話をしていたし、アルマ薬店でも同じだ。

「いやー、さすがは聖女様だね。ちょっとだけ見えたんだけど、祈りを捧げたらこう、キラキラとね──」

 便秘薬を買いに来たという中年の男性は、片手を広げて上にかざし、光の精霊の祝福である煌めきを表現している。どうやら初めてあの祝福を目にしたようで、興奮気味だ。

「そうだったらしいね。私は見ていないから、残念だよ。今日の夕方にも祈りを捧げるみたいだから、見に行ってみようかねえ」

 手早く薬の準備をしながら、カミラさんは相槌を打つ。
 その会話を聞きながら、私はなんとなくモヤモヤしたままだった。

(ルイーナ様、なんであんな嘘ついたんだろう?)

 全然親しくなんてなかったし、語らい合ってもいないのに。
 理由を考えてみたけれど思いつくことはひとつ──〝慈悲深い聖女様〟である自分を演出したかったのではということだけだった。現に、ルイーナ様は一度たりともアリシアの名前を口に出さなかった。ひょっとしたら、名前すら忘れているのではないかと思う。