入院生活は、想像以上に快適で、一日中テレビ三昧。自宅マンションよりも広い病室で、病院食は味気ないけど、朝昼晩と食事が運ばれてきて、まるでお嬢様。
テレビから流れる美味しそうなグルメを観て食べる、味気ない食事はいただけないが、仕方がないことと受け止める。
朝、夜と毎日社長はお見舞いに来てくれていた。会社が気になっていた私は、秘書課の様子はどうかと聞いても、

「仕事よりも俺のことを考えていればいい」

というだけで、会社の様子は話してくれない。電話をして様子を聞いてみようかと思ったけど、入院している間だけは仕事のことを忘れることにした。
入院当初は体調も悪くて、自分を気にしていられなかったから、素顔のままで社長と会っていたけど、それでも何だか恥ずかしくて、ナチュラルなメイクをして社長を待っていたら、

「素顔のままで十分綺麗だ」

と言って、おでこにキスをした。
社長は本当にロマンチストというか、甘いというか、言葉と行動で愛情表現をする。無口だと思っていた人からの甘い言葉は、破壊力抜群だ。
それはどれも私にとって初めての経験で、どう受けたらいいか分からない。
そう思っていても私の口は、「甘えとわがまま」を言って社長を困らす。本当に訳が分からない。
一週間の入院は、部長が人事に言って病欠扱いにしてくれ、要求していた有休を続けて一週間、取ってもいいと連絡が来た。
頼りないといつも思っているけど、部長は心がある人で、いつでも私たちを見守って、必要なときには盾になってくれる。
秘書課という女ばかりの職場で、肩身が狭い思いをしているだろうけど、部長のぼんやりとした雰囲気がそれを感じさせない。上司と部下の垣根がないのは、部長だからだ。
さすがに気になって秘書課に電話を入れると、部長はしきりに首を捻った。

『いやあ、社長はあのような方だったかな?』

ここ数日の社長の評判は良いようで、他の秘書も互いに押し付け合うことなく、私の代理をしてくれているそうだ。
当然のことながら社長は、この病院の看護師さん達にも大人気で、病院中の女性医療従事者を虜にした。
イケメンという言葉があるけれど、社長はそんな軽く誰にも当てはまる言葉じゃ括れない。ハンサム。
この言葉が一番だ。顔のパーツが一つでも良くて、全体的にまとまっていれば、イケメンと呼んでもいい。とっつきにくさは顔でカバー。
だけど、ハンサムは残念な個所がなく、非の打ちどころがない顔に対して、呼ぶことが出来る選ばれた男に対する呼び方だ。それほどの男が私に夢中なんて、皆に言いふらして自慢したい。
しかし、それが出来ないのが、私達の恋だ。これからきっとそのことで葛藤するときが来る。その時、社長はどうするのだろう。