次の朝から、登校前に必ずつばきを迎えに行った。つばきのおばさんは「こうやって朝来てくれるの、久しぶりね。」って、大袈裟に泣きそうな顔をした。

親達からすればそうなのかもしれない。
親しかった俺達だけじゃない。カンナの死は確実に、町全体に影響を及ぼした。

夏が終わろうとする九月に海に入る人なんて滅多に居なかったけれど、防波堤や海岸にあまり人が近づかなくなったのは確かだ。

カンナが死んでしまってまだそう時間が経っていないから、まだカンナの家族や幼馴染である俺達でさえ好奇の目で見てくる人達もいる。

これが都会ならどうだったのだろうと思う。ネットワークがこんなに濃くなければ、もっと早く忘れてくれるかもしれないのに。
事件も事故も噂話も、この町よりはずっと溢れているだろうから。

カンナの親やつばきの親、俺の家族だって疎遠になりそうな縁を危惧していた。
だから俺がまたこうやってつばきを迎えにくることが嬉しいのは分かる。

学校でもホームルームが始まる前や休憩時間、昼食の時間、放課後も、ほとんどの時間をつばきと過ごした。

「お前達、付き合ってるの?」

同級生にそう言われることも増えた。
そのたびに俺は答えを濁す。

俺の恋人は今でもカンナだ。これからも。

心までは絶対につばきには渡さない。復讐の為につばきを油断させる準備をしているんだ、なんて言えるはずは無い。

「つばきさ、カンナのこと相当慕ってたから。まだ傷ついてるんだよ。病んだりしたらいけないから。一緒にいることにしたんだ。」

俺のその言葉を誰も疑わなかった。まるで警察すらダマしたつばきみたいに。
その言葉をみんなが信じたのも、つばきが今でもずっと化けの皮を被り続けるからだ。

誰にでも優しくて儚げで、いつもにこにこ微笑んでいる綺麗な顔のお姫様。

本当の悪がどこに潜んでいるかなんて、誰も知らない。童話の世界で悲劇を起こすのはお姫様だなんて誰も思わない。

きっと、カンナがそう思っていた様に。