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 一睡もできないまま朝を迎えた律は、より一層クマが濃くなった顔で登校する。
 地味に過ごすと決めていたのに、昨日は真逆のことをしてしまった。

 ――あんなに大勢の前で叫ぶなんて、私ったら何てことを。誰かに正体を勘付かれてたらどうしよう。

 新條がダンス係になったのは校長に頼まれたからだと言っていた。ということは、はるな先生は新條がダンス係になることを知っていた可能性がある。もし知っていたのに律にダンス係になるように頼んできたのなら、どういう訳か確かめる必要がありそうだ。

 ――今の状況に陥ったのは、元はといえばはるな先生がダンス係に任命したせいだよ。はるな先生に一つくらい文句を言ったっていいじゃないか。

 律は道場破りでもするかのような勢いで職員室に乗り込み、いかり肩になりながらはるな先生の元へ向かった。

「先生! 何てことしてくれたんですかっ」

 はるな先生は突然の出来事にきょとんとしている。いい香りを漂わせながら、優雅に紅茶を飲んでいる最中だった。

 だがすぐに律は返り討ちにあう。

「それはこっちの台詞よ! 新條とペアになるの拒否して途中で帰ったんだって? おかげで『月影さんの代わりに私を新條くんのペアにして』って何人もの女子達から頼み込まれて大変だったわ。変更してちゃ収拾がつかなくなるから、このままペア続行よ。ダンス会議にも出席すること!」

「えぇぇ、そんなぁ」