華奢で天使のような彼女に縋りつかれるのは、庇護欲を誘った。俺はすぐに紫苑を抱き締めて、ふわふわの髪を撫でてやった。



『…紫苑、大丈夫だ』



事情なんて分からないが、とにかく紫苑を守りたかった。何かに怯えているような、逃げたがっているような、そんな彼女を救いたかった。ただそれだけの想いで、俺は何度も『大丈夫だ』と口にした。


嗚咽を漏らす彼女は、次第に落ち着いたのか、深呼吸して涙を拭う。



『っ…ごめんね、すごく…悲しくて…』



何が彼女を悲しませたのか。俺はその『何か』が許せなくて、紫苑の背中を優しく撫でながら問い掛けた。



『…何があった?』



『……』



寂しげに口を噤む紫苑。黙って紫苑を抱き締めて、返事を待つ。やがて顔を上げた彼女は、決心したように口を開いた。




『…あのね、わたしね、
…もうぜんくんには、会えないの…』



『………は』




何度も口にしていた『大丈夫』に、意味は無かった。その言葉が信じられなくて、俺は目を見開くだけだった。



紫苑はそんな俺を見て、寂しそうに、悲しそうに微笑む。