パーティー会場から私は外へ出た。

「はあぁー」
無意識のうちに声が漏れる。

私の中で、奏多さんは思い出の人になったはずだった。
もう二度と会うことのない幻の人。
シンガポールで過ごした数日は私にとって夢の時間で、大切な宝物にするつもりでいた。
それが・・・

なんで再会してしまったんだろう。
それも大企業の副社長。私なんかには近ずくこともできない人になって表れるなんて、惨すぎる。

これからどうしよう。
総務の新人なんて副社長と顔を合わせることはないはずだけれど、同じ会社にいるって思うだけで私には辛い。
同じ建物の中にいて会えないのも苦しいし、噂話が耳に入ってくるのも嫌だ。
私の知っている奏多さんと副社長は別人だといくら思おうとしても、実際見えるところにいられれば気持ちは揺らぐ。
こうなったら、春からの契約延長は希望せずに別の就職先を探そうかな。

「芽衣」

え?
この声は・・・

「芽衣」
もう一度呼ばれ、私は振り返った。