日本に帰ってきて、一週間後には新しい職場に出社した。
シンガポールで散財してしまったからこれ以上遊んでいる余裕はないし、実家の父さんに仕事を辞めたと伝えていないから一日でも早く働きたかった。
うかうかしていたら実家に帰って来いって言われそうだしね。
別に東京にこだわるつもりはないけれど、このまま帰れば逃げ出したみたいで嫌だから。

「小倉さん、挨拶して」
朝礼で課長に紹介され、私は一歩前に出た。

「本日からお世話になります、小倉芽衣です。よろしくお願いいたします」
腰を折って頭を下げると、フロアから拍手が上がった。


「じゃあ、席は坂井さんの隣ね」
「はい」

結構広いフロアにいくつもの島があり、私はその中の一つに案内された。

「坂井藍です。よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

私の転職した先は平石物産の総務課。
平石財閥傘下で全国規模の上場企業。
本当なら私なんかが入れるところではないけれど、来年春までの期間採用ということで就職できた。
もし継続採用してもらえなければ春にはまた就活しなければならないけれど、それでもすぐに働きたくてここに決めた。

「芽衣ちゃんって呼んでいい?」
「ああ、はい」
「私は藍でいいから。ちなみに二十五歳ね」
「はい、藍さん。私は二十三歳です」

藍さんは肩まで伸びたウエーブヘアがとってもかわいい女性。
よかった、藍さんとなら上手くやれそう。