「はぁ、やっと様になったかな」

「鋏の使い方がとてもお上手になられましたね、旦那様」

「草木の手入れがこんなにも気持ち良いものだと知らなかった日々が嘘のようだよ」

「薔薇の刺で痛い思いをする事もなくなりますから、奥様も喜ばれるでしょう」

「そうだね。 もっとも彼女は眺めるだけだから手で触れやしないが」

 俺の格好は庭師の薄汚れた服装とたいして変わらない。 白いシャツには土色の汚れや緑の葉で擦ったような跡、刺が刺さって裾で拭った血の跡。
 以前ならその度に執事が手当てをしていたが、慣れた今ではそれもどうという事はないのだと構わなくなった。

「もっと花壇を広げようか」

「そうですね。 リリィ様がいらっしゃった頃はテラスからの眺めがとても素晴らしいもので……」

 庭師は失言を口にしてしまった時の青白い顔だ。
 誰もがあれからうわ言のように時折、リリィの思い出を口にする。
 人間とはいい加減なもので、簡単に忘れ、あっさりと何も無かったのだと錯覚してしまう。 俺も含めて、リリィから距離を取っていたはずなのに、まるでそんな覚えはないという雰囲気だ。