×月×日

 初めてトラウデンバーグの地に足をつけた日、理由もわからないのに嬉しくなった。
 懐かしい空気、遠くに聞こえる心踊らせる楽しそうな人々の賑わった声、鼻をくすぐる美味しそうな匂い。

 私はここを知っている。
 先の城下に忍んで紛れるのがとても楽しくて、いつもお付きの者達を困らせていた。
 あれは夢の中の世界ではなかったのだとどうしてだか確信した。 まるで戻って来られたような気がして、心が震えた。

 馬車で城に到着してすぐジェイに連れられて向かったのは、両陛下の私邸。

 とても気さくで温かい雰囲気を持ち、それでいてジェイの選んだ相手が私だという事は会う前から知っていたようだ。 きっと預言者の存在があったからだろう。
 この国ではそれほどに預言者は敬われているようだ。