ケータイ小説 野いちご

白火日の魔法使い

白火の使い手
無邪気な性悪王子

「うそーん!!」
恐怖で悲鳴をあげたけど、私を引っ張る謎の力は弱まらない。
レイクはどこへ行ったのよ!

(どこまで行くの……!なんとかしないと!)
なにか良い方法はないかと、良くない頭をフル回転させる。
……何も思い浮かばない。
もしかして、このままずっと歩き続けるの?
い、嫌!そんなの嫌!
(怖い。誰か助けてー!)

ガッ、ドシャッ

「………」
コケた…。
顔面からもろにコケた。
でも……。
(と、止まった…?)
私は安堵して顔を上げた。
そして凍りつく。
目の前は霧もなく、真っ暗な闇が広がっていた。
「ここは、どこ?」
自分の声を確認するように、私は呟いた。
ドクンドクンと心臓が痛いくらいにうった。
(こ、ここは何処なの?どうして真っ暗なの?)
ハッとして、魔法で炎を出した。
白い炎があたりを照らした。
ホッとして立ち上がり周りを見渡すと、信じられない思いがした。
私はいつの間にか、鉄格子に囲まれた牢屋のような場所にいたのだ!
「ど、どういうこと!?森を歩いてきたはずなのに」
私は気が動転して炎をあっちこっちに振り回した。
すると、
「キャッ!」
と、悲鳴が聞こえたものだから、私は超驚いて声の方へ炎を向けた。
炎にうつし出されたのは、色白で華奢な体の女の子だった。
流れるような栗色の髪に、青い瞳。
ものすごく綺麗な子だ。
(よかった、人がいたんだ!)
私はホッとしたけど、
(ん?この子、どこかで見たような…?)
私が記憶を掘り起こしていると、少女は食いつき気味に口を開いた。
「あぁ、良かった……!こんなところでどうしようかと思ってたの!でもネア様もここに迷い込んでくるなんて」
「あ、やっぱり会ったことあるんだ。ごめんなさい、どちら様ですか?」
失礼ながらお聞きすると、少女は嫌そうな顔ひとつせず答えてくれた。
「この間、私の父の誕生祭でお会いしましたよ。ガレッド一族当主の娘、リシュと申します。改めてよろしくね」
(な、なんかすごいフレンドリーな子だな……)
暗い牢屋にいるのに雰囲気が、一気に明るくなる。
リシュちゃんは私の姿をじっと見た。
「!」
私は、自分が珍しい目の色をしているからだと思い一瞬嫌な気持ちになったけど、
「ネア様って髪がふわふわで可愛いなと思ってたの。パパのスピーチ中にもケーキをもりもり食べてて、なんて自由で素敵な子だろうって。ずっと仲良くなりたいなって思ってたんだ」
そう言って、リシュちゃんは白く温かい手で私の手をつつんだ。
何この子、いい子……。
(もりもり食べてるとこ、見られてたんだ……。でも、こんなこと言われたの始めて。私浮いてるから、学校では距離取られてるし)
リシュちゃんは後ろを振り向いて、
「カシア君、みてみて!ネア様が来たよ!」
「か、カシア君?」
まだ人が?
カシア君とやらは少し離れた場所にいるのか、この位置からは炎のあかりがとどかなかった。
私はカシア君の近くまで寄ろうとしたけどその前に無視できない別の顔を見つけた。
紫色の髪に、真紅の瞳を光らせた小柄な少年。
「レイク!」
「ネア、大丈夫だった?」
レイクはつかつかと私の方へ歩いてきて、私の鼻をちょんとつついた
「怪我してるよ、痛い?」
私はその手をパシッと払い除けた。
「誰のせいだと思ってるのよっ!なんで急にいなくなったりするの!!」
「えー?いなくなったのはネアでしょ。気づいたらいなくなってたじゃん」
「えっ、うそ!」
「なんてね」
レイクはつまらなそうにあくびをし、その後試すような目で私を見た。
「ここがどこかわかる?」
ここがどこかなんて知るわけない。初めて見た場所だもの。
でも横からリシュちゃんは、
「暗夜の国の、お城の牢屋だよね」
と答えた。
(暗夜の国?)
暗夜の国って、どこだっけ。
聞いたことはある。
私は今、私の住んでる国ではない場所に来てるってこと?
しかも牢屋?
「そ」
レイクはニヤリと笑った。
その瞬間、あたりが明るくなる。
牢屋は広い部屋にぽつんとにあり、部屋の周りについているたくさんのロウソクに真っ赤な炎がともっていた。
「父上の命令だったんだ。フェミール国の姫とレアガンド国の王子を連れて来いって。余計なの一人ついてきたけど」
そう言ってリシュちゃんを一瞥したレイクに私は食いかかった。
「ちょっとまって。私達は森を歩いてたのよ。それがどうして暗夜の国に!?」
「あの森は奥に進むにつれ空間が不安定になっていて、いつの間にか自分の都合の良い場所に行き着くことができるんだ。他国、魔界、人間界、水中…。僕はそれを利用しただけ。ただ森の霧には魔力があって、迷い込んだ王族を森の外へと返してしまう。だからその霧がある限り君は元いた場所へ戻ってしまう。途中、なにかに腕を引っ張られてたでしょ?」
「あ…」
あれは、霧が元の場所へ導こうとしてくれていたの…?
「僕も手を離していたわけじゃないんだけどね~。離したら別々の場所にとばされるし。で、君の足を引っ掛けたってわけ。霧の魔力は王族の血を引く歩く者だけが受けるから、転んでしまえばね。さすがの僕でもフェミール国から暗夜の国までは魔法で連れてこれないから、便利な森だったよ。こういう場所って結構たくさんあるんだ。君ら他の国の人は知らないだろうけどね」

「聖域様々だね」等と、なんの悪びれもなく言う少年に、私は怒りがこみ上げてきて抑えられなかった。
(信じられない。私のことだましたんだ!)
思わず振り上げた私の手首をレイクは右手でつかみ、軽くひねった。
「痛い?」
(うっ!)
痛くはなかったけど、振りほどけない。
リシュちゃんは慌ててレイクの指をほどこうとしたけど、レイクの力は余計に強くなり、とてもとけなかった。
更に、レイクの左手が私の髪に触れた。
「この髪、本当にお母様譲りだと思ってる?違うよ。君には親なんていないんだよ」
「なにいって…」
「知ってるでしょ。白火日の魔法使い」
その言葉にドキリとした。
白火日の魔法使いは、私のお母様だ。
お父様が命を削って生み出した、最強の兵器。
その力は強力すぎて、今はどこか私の知らないところに封印されているはず。
「君のお父様はね、君に隠し事してるんだよ。それはね、」
その時。

ギリッ……!
誰かがレイクの腕を強く握りしめた。
「痛っ。はあ?なに」
レイクは声を上げ、忌々しそうに自分の腕を掴んだ少年を見上げた。
夜の海のような瑠璃色の髪に、金色に光る瞳。
スラリとした少年が、怒った顔でレイクを見下ろしていた。
リシュは嬉しそうに声をはね上げた。
「カシア君!」
(カシア……、この子が……)
レイクは皮肉に笑った。
「レアガンド国第ニ王子、カシア様。お顔が怖いですよ。僕の道案内が気に入りませんでしたか?」
(レアガンドの王子…!)
私は驚いてカシアを見つめた。
整った精悍な顔立ちに色白な肌、長い手足。
動くたびにひらめくブルーのマント。
絵に描いたような王子様の姿を目前として、私は少し興奮した。
カシアはチラと私を見たけど、目が合うとすぐにそらした。
そして、レイクをジロとにらみ、
「最悪だ。今日は兄さんの誕生祭だったんだぞ。こんなびらびら鬱陶しいかっこで牢屋にぶち込まれて、どういう状況なんだ。悪いが俺はお前に付き合っている暇はない。何を隠そう、俺はレアガンド王子だからな」
と、さっき私がレイクに言ったことと似たようなセリフをずげずげと言い放った。
(ああー!それ言っちゃいけないんだって!まずい、また怒る……!)
笑みをたたえたままのレイクに、カシアは更に続ける。
「何が目的だ?俺を誘拐するなんて、後でただでは済まさないぞ。お前も腐っても暗夜の王子だろう。こんなことはやめろ」
「えっ!」
私は驚いた。
レイクって王子なの!?
言われてみれば、レイクはレリューナの森に入れたんだ。
レリューナの森は結界を破るほどの力を持つ者か、または王族特有の特別な魔力がないと入れない。
私が一人で納得している間もカシアは容赦なくレイクを責める。
「お父様の言いなりか?お前はこんなくだらないことに従うつまらないやつなのか」
「ちょっ、ひどい…」
この人見た目は王子様だけど、ちょっと口悪すぎない?
レイクは私を掴んていた手を離した。
怒ってると思いながら、私はそ~っとレイクの表情をうかがうと、その顔はわずかに苦しそうだった。
(レイク?)
それも一瞬のことで、レイクは瞬時に右手をリシュちゃんに向けた。
あっと思うより早く、黒い影がリシュちゃんの周りにとぐろをまき、あっという間にその姿を覆った。
「おい!やめろ!」
カシアは血相を変えて影を払った。
慌てて私も参戦する。
(一体何をしたの?)
影が見えなくなる頃にはリシュちゃんは床にくずれおちていた。
カシアはリシュちゃんの頬をペチペチとたたいて何度も名前を呼びかけたけど、私はリシュちゃんの顔を見て凍りついていた。
リシュちゃんは青い目を開けながら、死んだように動かなくなっていた。
(なにこれ。死んでるわけじゃないのに、どうして目を開けたまま動かないの)
私はレイクを見た。
「なにをしたの…?」
「そいつに父上は用がないからさ」
レイクは微笑した。
「僕が使おうと思って。僕のお人形にするんだ。何でも言うこと聞くよ。ほら、動きなよ」
そうリシュちゃんに言うと、リシュちゃんはむくりと起き上がって…。
ドンッ
「なっ!」
カシアをつきとばした!
そして、フラフラとレイクの側へと歩いていく。
「リシュ、いくな!」
カシアはリシュちゃんの手をつかもうとしたけど、パシッと払われてしまう。
(リシュちゃん……)
「誤解しないでよ、ネアとカシアはお客様なんだ。今から父上の所へ連れていってあげる。帰りたかったら相談してみな。ただし、この子は帰さない」
レイクはそう言って牢屋の扉を魔法で開け、
「さあ、出なよ」
と顎でしゃくった。
そんなレイクの胸ぐらをカシアは掴み上げた。
「ふざけるな。リシュをもとに戻せ」
私も必死に叫んだ。
「お願い、リシュちゃんを戻して、私達を帰して!」
レイクはふっと笑い、
「いいよぉ~?」
カシアの手を払い、あっさりとリシュちゃんをこちらによこす。
嫌な予感。
「元に戻して欲しかったら、僕とゲームする?」
(ぐはっ!やっぱり条件つきだった)
「僕だって君たちを父上のところへなんか連れていきたくないんだ。でも勝手に君たちを帰すととんでもない目にあわされるわけ。だから僕は君たちから逃げる。うーん、そうだなぁ」
そこで間をおいて、
「この城のどこかにいる僕を見つけ、僕の弱みを突きつけた上で、帰してほしいと言ったら彼女を元に戻して、それぞれの国へ帰してあげる。それでどう?」
弱み?
「そんなの、どちらかは最悪な目に合うわけじゃない。貴方がお父様に相談してくれたら、それですむのに!」
「無理だよ。父上は僕の話なんか聞かない。これを受け入れないんだったら、この子は返さない」
「でも……!」と言いかけた私の言葉をさえぎって、
「わかった」
「えぇ!カシア!」
「こいつには何言っても通じない、時間の無駄だ。ほら、さっさと逃げろよ、その代わり」
カシアは真っ直ぐにレイクを見つめた。
「俺らが勝ったら、必ずリシュをもとに戻せ」
真っ直ぐ正義感に満ちた顔は、さすが一国の王子というだけはあった。
でも、それだけ?
(カシアはリシュちゃんのことが好きなのかな。それか、もしかして付き合ってる?)
そんな考えがよぎったけど、カシアを見るレイクの憎々しげな顔をみて私は、更にあることを思った。
(レイクは……)
レイクは私達に背を向け、歩き出した。
「わかったよ。ちゃんと見つけなよ?」
リシュちゃんをつれてスタスタと歩くレイクの身体が揺らいでゆき、やがて二人は消えた。
「えっ!消えた!」
「移動魔法だ。それくらいわかるだろう」
そっけなくいうと、カシアは部屋の扉を開け、部屋を出た。
私も慌てて追いかける。
「早く見つけるぞ。」
「見つけるって、どこを探すの?」
「とりあえず、この城の王に会おう」
カシアがケロリとした顔で言う。
「え!いいのそれ。私達を誘拐しろって命令したやつよ」
「弱みを見つけないとリシュを返してもらえない。親に聞くのが一番だ」
(えぇー)
先程の正義感に満ちた言動はどこへ?
(にしても、なんかさっきからこの人そっけないな。何か怒ってるのかな……)
そう思ってから、私はさっきレイトに腕を掴まれていたところを助けてもらったことを思い出した。
「ね、ねえ。さっきはありがとう」
「……うん」
「今更だけどはじめまして、私はネア。よろしくねカシア」
「………」
(ん?)
カシアは私から目をそらして、黙って歩き出した。
(はぁーっ?何あいつ感じ悪!)


少し歩くと、まるでゲームのボスでも潜んでいそうな大きな扉があった。
気を取り直した私はちょっとワクワクして、
「うわぁ。ねぇ、入ってみようよ」
「え……?」
カシアはこいつ頭大丈夫かとでも言いたそうな怪訝な顔をしたけど、流石に遠慮したのか何も言おうとせず体重をかけて扉を開け、中の様子をうかがった。
私も除くと、そこは豪華な装飾の大きな窓がたくさんついた、広い部屋だった。
私は外を見てぎょっとする。
「えっ?もう夜!?お父様が心配するわ!」
カシアはポケットから懐中時計を出して時間を確認し、ため息をついた。
「まだ夜じゃない。暗夜の国には太陽がないんだ。そんなことも知らないのか?」
「太陽がない……?」
(太陽がない国が存在するっていうのは聞いたことあるけど、それが暗夜の国ってこと?)
学校の先生が、国王が魔法で太陽の光が当たらないようにしているって言ってたような気がする。
「国王といえど世界中を照らす太陽の光を一つの国まるごと当たらなくするなんて、普通は絶対にできない。十万人のちからを合わせても無理だろ。そんなだから暗夜の城の者は禁術に手を染めてるって噂も聞く」
禁術と聞いて、私はぎくりとした。
(お父様がお母様を生み出したのも、禁術なんだよね……)
それでも、お父様の国民からの人望は厚い。
それは国を守ったからなのもあるだろうけど、それよりもどんなときも民を思う、優しい人柄だからな気がするんだ。
(そんなお父様が好きになった人なんだから、お母様だってきっといい人よね。封印なんてやりすぎなのよ)
私は両親のことを思い、少し寂しい気持ちになった。
うちに帰りたい。
魔力封印の首輪に手を触れる。
私はお父様もお母様も大好き。
たとえ禁術を使っても、二人は優しい人のはず。
お父様は私の魔力を封じても、私とお母様のことを愛してくれているはず。
お父様、きっと私がいないことに気づいて助けに来てくれるわよね?
(だから、レイクがさっき言いかけた、お父様の隠し事なんて気にしない!)
「なあ、人がいるみたいだ」
カシアは壁の角から様子をうかがっていた。
「え?じゃあ助けてもらおうよ」
と言いかけたけど、カシアの白い肌が青ざめていくのを見て、この角の向こうにいる者に見つかってはいけないということを察した。
足音が近づいてくる。
カシアは私の腕を掴み、足音とは逆方向に走り出した。
部屋の奥の扉をカシアは乱暴に開け、そして硬直する。
どうしたの、と聞いて私も部屋を覗くと、部屋には、おびただしい数の等身大の人形が転がっていた。
全て、光る眼でこちらを見ていた……!
その光景に私は思わず悲鳴をあげて扉から離れる。
さらに、近づいていた足音がすぐ私達のすぐ後ろで止まった。

「お客さんか」

瞬間花のような甘い香りが漂い、その濃厚な香りにめまいがした。
(な、なにこれ、意識が……)
強烈な睡魔に襲われ、振り向くこともできず座り込んだ。
「くっ……!しっかりしろ!うわっ」

(だめだ……私達死ぬのかな。お父様、お母様、会いたいよ……助けに……)
カシアの叫び声が聞こえたけど、もう目の前は真っ暗だった。

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