広間には既にお客様がたくさん集まっていることだろう。まだ扉は開いていないけれど、ざわざわした空気が伝わってくる。
 夜も更けて、パーティーの開始時間が迫っていた。待機室でグレイスはフレンと出番を待っていた。本日の主役なのだ。グレイスの入場は一番最後。
「緊張しておられますか?」
 フレンが尋ねてくれる。今日のフレンの服装はしっかりとした盛装。黒の燕尾服なのは同じだが、布や品質が一目見て良いものであるし、控えめについている装飾が華やかに飾っていた。
 使用人ながら、今日の主役のグレイスの従者であるのだ。使用人としては一番上の立場。それに恥じない格好だった。
「そうね……少しは」
 グレイスは正直に答えた。ここで嘘を言っても仕方がない。
 実際、過度には緊張していないし。なにしろパーティーは年に一度の誕生日以外にも事あるごとに開催されていて、二、三ヵ月に一度は出席しているのだから。
 今日は自分が主役、しかも十六歳という節目の年で、おまけに重大発表まで用意されているのだから緊張が強いだけだ。
「お嬢様なら大丈夫ですよ」
 そんなグレイスを安心させるように、フレンは微笑んでくれた。グレイスの腰かけている椅子の横から優しい視線で見下ろしてくれながら。
「そうだと良いけれど」
 つられてグレイスも笑みを浮かべていた。フレンが言ってくれればその通りになる気がする。
「それに、今日のお嬢様はとてもお綺麗です」
「……ありがとう」
 チークのせいではなくほんのり頬が染まってしまいながら、グレイスはお礼を言った。
 照れてしまうけれど、とても嬉しい。他ならぬ想い人に褒められるだけでなく、それが『綺麗だ』という言葉だったのが。
 今日のグレイスは、試着したのと同じドレスを着ていた。あれから微調整を入れてくれたらしく、より体にフィットして着心地は良くなっている。
 くすんだ色合いのピンクのドレス。フリルやレースが上品に飾っている。かわいらしさと少々の大人っぽさ。若い女性として、そして半ば大人として認められる歳としてふさわしいと思う。