唐突に視界が開けた。

足元には学生鞄とレジ袋が落ちていた。住宅街の隙間から夕焼けが空を焦がしている。家路を辿っていたのか。帰って、きたんだ。

少し歩こうとすると慣れない目線の高さと体の重さによろめいて、こけてしまった。さっきまで小学生だったからか、感覚が狂っている。尻もちをついて痛みに顔を歪める私。

頭の中に流れ込んできたのは、さっきまでの出来事。
記憶という液体で体が満たされていくのを感じる。少しずつ、少しずつ、鮮明になる春の日の話。


『この縁をどうか切らないでやってほしい』



......。縁......。

私はすぐに、半分開いていた鞄の中に手を突っ込んで、中から携帯を出した。早く、早く、早く早く早く!! 藍子に会わないと、真広を助けないと。