一方その頃。アルトバロンは後宮へ続く廻廊の壁際に待機し、大切なお嬢様の帰りを待ちわびていた。

(……それにしても、今日は特に獣人避けの匂いがきつい)

 鼻がおかしくなりそうだ、とアルトバロンはきゅっと眉根を寄せる。
 並みの獣人であれば、後宮に近づけないどころか、昏倒していてもおかしくないだろう。

 アルトバロンはティアベルの剣となり盾となるべくして拾われた従僕として、幼い頃からディートグリム護衛騎士団で、それ相応の訓練は受けている。
 やり方がわかってからは、自分でもあらゆる危険な毒物などに対し耐性をつけた。獣人避けもそのひとつだ。

 だが、それでも無表情を貫き通すには限界があった。

(この中で、お嬢様は本当に安全を保証されているのか? やはり何か適当に言い訳をでっち上げて、お嬢様を屋敷に帰すべきだったのでは……)