(固有魔法である〝箱庭〟を検証するということは、すなわち自己の深い部分と向き合い、そこに存在する深淵を覗くのと同義である)

 アルトバロンは〝ティアベルの従僕〟として特別に与えられた一人部屋にこもり、上級魔法で埋め尽くされた術式を読み解きながら、ふと考えた。

「かの有名な魔法哲学者も言っていたな。『祝福が運命をもたらすのか、運命が祝福をもたらすのか』」

 何百年も昔に固有魔法を研究していた魔法哲学者は、固有魔法と運命は因果性のジレンマの中にあると述べた。

 ほとんどの固有魔法は、幼い頃に形成された概念に基づくことが多い。だがそれは、生まれる以前に女神に与えられた固有魔法が、生まれた後から十三歳になるまでの人生や宿命を作り上げているからだと。
 (ドラゴン)が先か、卵が先か。そういう話だ。

 アルトバロンの〝箱庭〟の風景も、最初は皇城にある離宮の明るい一室だった。