台湾の住居を引き払い、日本に定住する。
この報告に両親は大喜びだった。ようやく左門家の嫁として自覚が出てきただのなんだの大騒ぎだ。

両親が喜ぶのにはさらに理由がある。風雅のお父様の手術が決まった。療養の計画も含めた結果、予定を早め秋には風雅がCEOに就任する。
榮西グループの代替わりである。華々しい発表や新戦略を打ち出すなどは、現社長の病状を慮って見送られた。
風雅の責任が益々増す中、妻として私が傍にいることは、多少なりとも役に立っているだろうか。

「希帆~、一緒に寝よ~」

今夜も風雅は明るくのんきだ。濡れたままの髪で私のもとへ寄ってくる。

「そこ座って!」

私はあからさまに顔をしかめ、風雅の頭をバスタオルでがしがし拭く。風雅はソファに座り、私は立った姿勢だ。こうしないと風雅の頭に手が届かない。

「ドライヤーかけるから待って」
「夏のドライヤー嫌い。暑いし」
「髪、乾かさないなら一緒に寝ない」
「乾かします」

おとなしくなった風雅の髪の毛をドライヤーで乾かす。さらさらと心地よい手触りの髪、私よりずっと大きな頭骨に触れると、なんだか自分が小動物にでもなった気分。
なんだっけ、肉食魚の身体や口の中を掃除するエビっていたけど、そんな感じ。

「暑いなら一緒に寝なきゃいいのに」

ぼそりと言うと風雅が熱心に言い返してくる。

「希帆と寝るのは大事だから譲れない」

綺麗な目がじっと私を見つめてくるので、照れくさいような居心地が悪いような。