たぶん沢渡(さわたり)って苗字がいけなかったんだと思う。運命のレベルでまずかったんだと思う。
私、沢渡希帆は高校一年のクラスで、左門風雅なる問題人物と出席番号が前後という人生やり直しレベルの出会いを果たしてしまった。
そのクラスメイトとなんの因果か在学中に婚約状態となり、十年の月日が経過。台湾で仕事をしていた私は、いよいよ風雅と結婚しなければならず、やむなく帰国した。

……ここまでのざくっとした説明でついてこられる?

我ながら色々端折ってる気はするけど、まあ詳細はまた後で。
大事なことはただひとつ。
『私、沢渡希帆は、左門風雅をまっっったく愛していない』ということ。
どっちかというと、苦手な部類。
そんな男と結婚するため、一時帰国した私の心情を五文字で延べよ。


「帰りたい」

ぼそりと呟く私の手からスーツケースを奪い取り、左門風雅は私の顔を覗き込む。背が高い彼は腰を折るようにして顔を近づけ、にっこり笑うのだ。

「なになに、どうした? 疲れた? って言っても、フライト時間短いよね、台湾って。三、四時間?」
「うるさい……」

羽田空港まで迎えにきた左門風雅は約一年ぶりの再会に、とても楽しそうだ。
189センチのすらりとした体躯を、Tシャツとジーンズというラフな装いに包み、天然で少し色味の薄い髪の毛は風にさらりと揺れる。中性的な顔立ちは凛々しく美しい。
まあ、客観的に見ればかなりレベルの高いイケメンだとは思う。