【爽太Side】



「……子供」

 紅音は、子供がほしいと思っていたのか……。俺は全然その気持ちに、気付いてやれなかった。
 紅音の夫として、いい夫になろうとした。せめてこの2年の夫婦生活が、紅音にとって宝物になったらいいなって思っていた。
 
 子供なんかいなくても、俺たちなら二人で十分やっていけると、そう思っていた……。
 夫婦として共に生きることは、いいことだ。お互いを理解し合いたいと思うし、助け合うことは必要なことだと思っていた。 
 俺は紅音と離婚したら、ウィーンに家族と共に旅立つ。その日まで、紅音と夫婦として生きていくことを決めた。

 それなのに今、紅音にはまた夫婦以上に違う感情が浮き出てきていたことを、俺は全然知らなかった。
 まさか紅音が、家族になりたいと思っていたなんて。俺との子供が、ほしいと思っていたなんて……。想像もしていなかった。

「爽太さん?」

「……え?」

「どうかしましたか?」

「あ、いや。なんでもないよ」

 あれから一週間、紅音はその気持ちを俺に伝えることもなく何事もなかったかのように、普通に接してくる。