「……すっかり真っ暗だな」

弥凪と二人、最寄り駅に降り立つと、頭上

には褐色(かちいろ)の空が広がっていた。

数時間前に見た幻想的な空色とは打って

変わって、いまは淡月(たんげつ)さえも薄雲で

覆い隠されている。僕は楽しみにしていた

遠足が終わってしまったようなもの悲しさ

を覚えながら、繋いだままの弥凪の手を

引いて歩き出した。





「僕たち、ここから電車で帰ります」

そう言って、行きに3人で待ち合わせを

した駅で車を降りた僕に、町田さんは

少し戸惑ったような顔を見せた。

「本当にいいの?家まで送るって」

ちらりと咲さんを見やりながら、眉を寄せる。

「大丈夫ですよ。ここからならそんなにかから

ないし、町田さんは咲さんを送ってあげて

ください」

咲さんの家はちょっと遠いのだから、と、

それらしい理由を付け加え、弥凪と笑み

を向けると、

「そう?じゃあ、気を付けてな」

と、済まなそうに片手を上げ、彼は車を

発進させたのだった。もちろん、“途中で

車を降りる”ということを提案したのは

弥凪で、僕はこっそり送られてきたメール

の通りに事を運んだだけなのだけれど……

それなのに、いまになって、

(咲ちゃん、大丈夫かな?)などと、

町田さんが送りオオカミになりやしない

か心配し始めたので、僕は可笑しくて、

あはは、と声を上げた。

(大丈夫だよ。ああ見えて、町田さんは

すごく真面目だから)

そう、携帯に書いて見せると、弥凪はほっ

としたように頷く。どちらかというと、

僕の方がこのまま弥凪と離れるのは寂しい

気がしているので、オオカミになる危険が

あるのは、むしろ僕の方だった。

そんなことを考えているうちに、弥凪の家と、

僕のアパートに向かう道の分岐点に差し掛

かった。ひんやりとした夜風を受けながら、

のんびり歩いたつもりだったけれど、名残惜

しいと思うほどに、時は足早に過ぎてゆく。

僕はいくつもの街灯に照らされた比較的

明るい道を、しっかりと弥凪の手を握り

ながら歩き出した。

すると、突然、僕の手を、くい、と弥凪が

引いた。

「………?」

不思議に思って振り返ると、彼女は唇を

噛みしめ、俯いている。

もしかして、ご両親に怒られることを心配

してるのだろうか?

毎日遅くまで僕のアパートで共に過ごし、

ついには朝帰りまでしてしまったことを

母親に叱責されたという話を聞いてから、

僕は彼女に会う回数を減らし、休日も出来る

だけ早く家へ送り届けるよう、気を付けていた。

「どうかした?」

立ち止まったままの、彼女の顔を覗く。

心なしか、頬が赤く染まっているような気が

するが、それが、日焼けによるものなのか、

それとも、何か別の理由によるものなのか、

わからない。