「前から気になってたんですけど」

寺島先生がモーニングセットを食べ終えたタイミングで、改まって切り出したら、

「俺の誕生日は六月八日です」

と真顔で言われた。

「違います」

めっきりやわらかくなった日差しを、先生の髪はたっぷりと含む。
そうすると、瞳と似たような色合いになった。
このひとは秋がよく似合う。

私は先生からトレイの上に視線を移して、一点を指差した。

「ミニトマト、きらいなんですか?」

小さなサラダボウルには、ミニトマトがちょこんと残っている。
フレンチドレッシングにまみれて、白無垢を着こんだように愛くるしい。

「ああ……はい。そうです」

気まずそうに寺島先生はトマト姫から目をそらす。

「でも、サンドウィッチに入ってるトマトは食べてますよね?」

「大きなトマトは好きなんです。ケチャップもトマトジュースも好きです。苦手なのはミニトマトだけ」

「それって違いあります?」

「全然違います」

納得できず、私は背もたれに身体を預けて先生を眺める。

「いい大人なのに?」

ミニトマトだけが残されたトレイは、誰が見ても「きらいです」と言っているように見える。

「そう言われましても」

「きらいでも、ミニトマトひとつくらい我慢できるでしょう?」

まったく違う味のものならともかく、トマトもトマトジュースも平気で、ミニトマトだけ食べられないというのが、どうにも理解できない。

「きらいな人間にとっては、ひとつでも難しいものなんです」

「ふぅん」

「納得してませんね」

「だって、トマトは食べられるのに」

頼んだグレープフルーツジュースに手をつけない私が、こんなことを言うなんて、ひどいお門違いだ。 だけど先生はそんな指摘をしないと、私はもう知っている。
それは先生に対する完全な甘えで、私が先生に甘えているという事実は、まったく本意ではないのだけど。