朝一番に仲秋に到着した。

 各自がマスターキーを持っているから、いつきても入れる。

 白衣に着替え、入院室で寝起きをしているテンダーとマキオに挨拶をして、受付に行った。

 そういえば昨日、海知先生が受付の予約表を見てたな。気になって、パラパラめくってみた。

 びっしり隙間なく埋まっている予約表は、目がチカチカするし、昨日の忙しさが頭をよぎる。

「頭を切り替えて、掃除しよ、掃除だ掃除」
 
 床掃除をしていたら、みんなが出勤してきた。
 シューズの音が、今日も一日がんばるぞって言っているみたいに軽やか。

 そういえば院内で、ゆっくりと歩いている足音なんか聞いたことがない。
 院長以外は全員がスタスタ、シャカシャカ院内を走り回っている。

「おはようございます」
 大きな元気な、よく通る声が院内に響きわたる。
 海知先生が出勤してきた。

 朝人って名前の如く、日が沈んでも朝六時のような元気で爽やかな先生。
 まさしく、朝の人。

 待合室の艶々の青色のソファに乗って、大きなウインドウを拭いている、私にまで聞こえてくる。

 海知先生がいるだけで、その場がきらきら華やかになり、明るくエネルギッシュな雰囲気になる。
 強い存在感が、そういう空気を作れるんだな。

 泉田先生と話す元気な声が、ケアステから漏れてきたと思ったら、軽快な足音が近づいてくる。

 人柄が表れるのか、悠然としながら明るく弾む足音に、海知先生の足音だと記憶する私の心が弾む。

 鼓動をどくんと大きく鳴らして、心が嬉しいって叫ぶのはいいけれど、体が焦ってどぎまぎしちゃう。

 近づいてくる足音に合わせて、窓ガラスを拭いたまま、首だけタイミングよく振り返った瞬間。

「おはよううううややややや!」

 奇声を上げながら、丸みを帯びたつるつるのソファから足を滑べらせ、右肩からくるんと回転した。

「おはよう。陽気な新手のラッパーか? それとも、なにか俺に呪いでもかけたのか?」

 床に落ちかけた私の体を、海知先生が右腕で、ひょいと軽々と抱き寄せてくれた。

「慌てないで、焦らないで。怪我をされたくないよ」

 おはよううううやややややは恥ずかしい。せめて可愛く、きゃって声が出てほしかったな。

「それより、俺の聴診器の痕が、くっきり額について赤いぞ。心配だよ、大丈夫か」

「はい、痛くありません」
「聴診器」
「そっちですか」