今日は土曜日。ふだん、仕事で来院できないオーナーたちが、ここぞとばかりに押し寄せる。

 予約なしの飛び込みは、なんとか予約と予約のあいだに無理矢理ねじ込む。

 そんな猫の手も借りたいくらい、大忙しの一日が始まりますよ!

 朝の入院処置も終わり、怒濤のごとく押し寄せる患畜を無事に捌き切り、午前中のみの診療を終えた。

 海知先生は、前にいた病院のスタッフさんの結婚式だそうで、なんだかバタバタ忙しそうに帰って行った。
 
 院長は泊まりの出張で、さっき出発した。救急でも頼りになる泉田先生と美丘さんがいてくれるから大丈夫、猫さえこなければ。

「お腹空いたね」
 泉田先生が、棚から菓子折りを持ってきて開いた。
「ねえねえ、美丘さんもいただこうよ」

 美丘さんも加わって、それぞれマドレーヌやクッキーやケーキを口にする。

「ランスのところの菓子折りも、残りわずかですね」
 菓子折りを見ると、ランスを想い出すようになった。

「海知くんも、なかなかだよね。樫葉さんに花を送ったり、メッセージカードを送ったり、気にかけてあげてさ」

 ランスが旅立った直後は、混乱して無茶苦茶に取り乱しまくった樫葉さん。

 暴言を吐きまくり、錯乱状態のような人を、初めて見た私は驚いて、樫葉さんに寄り添うまでの余裕がなかった。

 海知先生は樫葉さんを受け止めて、つらさや哀しみからの混乱の言葉だから、樫葉さんの本心じゃないよって、私に教えてくれた。
 
 ランス亡きあとの海知先生は、ランスが生きていたときと変わらず、折りに触れては樫葉さんの心のフォローをつづけて、今では樫葉さんは、すっかり以前の樫葉さんに戻った。

 あまりにかっこよすぎるから、たまらなく海知先生に会いたくなっちゃった。

「噂すると、また海知先生いらっしゃいますよ、トコナッツのときみたいに」

「まさか。海知先生は、結婚式に出席しているのよ、戻って来るわけないでしょ」
 私の言うことは、美丘さんに一笑に付された。

 話は結婚式のことで盛り上がっていたら、電話の着信音が鳴り響いた。

「きっと、また院長ですよ、今回のお土産はなにがいいか、決めておいてくださいね」

 美丘さんが笑顔で話しながら、受話器を手に取る。

 それまで、穏やかに微笑みを浮かべていた美丘さんの頬は引き締まり、一瞬泉田先生に目配せをしたあとに、ホワイトボードに文字を書き出した。

 立ち上がった私は、ホワイトボードに書かれた情報を読み取り、急患を迎え入れる準備を始め、泉田先生は処置室に向かった。