ケータイ小説 野いちご

恋はイケメンエリート獣医師と動物病院で。

第一章 高鳴る胸は恋の鐘

 あった、ケアチームステーション。

 面接のときに、動物看護師の美丘(みおか)さんが案内してくれた。
 出勤初日は白衣に着替えたら、ここにきてって。

 ケアステのドアのガラス越しに、広い背中のうしろ姿が見える。
 
 男性は、面接のときにはいなかったから、初めて会う人だ。

「失礼します」
 ドアを開け、背中に話しかけたら肩を大きく回して振り向いた。

「おはようございます」
 ケアステに一歩踏み入れると、時が止まったみたいに動けなくなった。

「おはよう」

 空の上のお日さまが、そのまま降りてきたみたいな明るい笑顔が、とても眩しくて、知らずしらずに心の中が弾む。

 私のお腹にハート飼ってたっけ? 跳びはねて、どきどきが止まらない。

「新人さんでしょ、入っておいで」

 リラックスして本棚に寄りかかっている、スクラブ姿の人が、微かに首を傾げて微笑む顔が人懐こくて、吸い寄せられるように近くまで歩を進めた。

「道沿いの満開の桜、見た?」
「は、はい、四月ですね」
 返事も、そこそこ上の空。

 桜もきれいだけれど、それより目の前の人。

 爽やかな黒髪ショートが、清潔感あるブルーのスクラブにぴったり似合っていて、微笑みは、桜もかすむ美しさ。

 私の瞳は、わがままになり、目をそらしたくないと、まじまじと視線を這わす。

 満員電車の駅のホームからも、見つけられる自信がある。

 首が痛くなるほど仰ぎ見ても、鼻の穴しか見えないくらい、凄く背が高い。

「じっと見られたから、こんなに穴があいた」

 幅の狭い愛嬌のある、くっきりとした二重瞼の瞳。
 そして、優美なラインを描く筋の通った高い鼻。
 そこから、鼻の穴へと順々に指を差して見せてくる。
 
 学生時代、毎日電車に揺られていたのに、こんなにかっこいい人は見たことない。
 にやにやしちゃう。

「人は、あまりにも現実的ではない美しいものを目にすると、見惚れるより笑ってしまうって、だれかが言ったとか言わないとか」

 小さく吐く息に笑い声を交え、いたずらっ子みたいに微笑む。

「きみは、どなたですか? 自己紹介も忘れるほど、俺になんとかか?」
「なんとかって?」

 なんとかの意味を聞き返してきたのは、生まれて初めてだって笑われた。
 だって、わからないんだもん。

「みんな、初対面で自己紹介も忘れるほど、俺に見惚れるんだよ。俺と関わる女性の通過儀礼だ」

 えええ、自分で言う?

「とにかく、俺を見ると、女性は頭が真っ白になっちゃうんだってな。改めて自己紹介をどうぞ」

「は、はい!」
「落ち着け、ここは野外ライブじゃないんだ。そんなに、声を張り上げなくていいよ」

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