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夏休みもまもなく終わる、
8月下旬ーー


例のごとく、麻が変なことを言い出した。


「私、今日何が起こるかわかる…」


今日は大連に誘われ、
麻と四谷さんと一緒に釣り…
しようと思ったが、雨で中止になり、
カラオケに来ている。


曲を歌い出すより早く神妙な顔でそんなことを
言い出した麻に、
俺たちはまた始まったと顔を見合わせた。


「今、また始まったって思ったでしょ!!」

「まぁな。」

「今日のは違うの!
今まで香月くんの夢しか見てこなかったのに、
今日は今日の夢。」

「あーそ。」


適当な返事を返していると、
麻が俺の手から曲を入れる機械を取り上げた。


「今日、香月くんの夢が予知夢だって証明する。
この前のマフラーみたいにはいかないよ!」


この前のマフラーってのは、まだ買っていない俺のマフラーの色を麻が予知夢で見たってヤツ。



「自信満々じゃん。
てか機械返せ。」

「今日、雨で釣りできなくなることも
代わりにカラオケに来ることもわかってた。」


俺ははーっとため息を吐き、麻に笑顔を向けた。


「麻、天気予報って知ってるか?
昨夜見てたら誰だって『明日は雨か。釣りできなくて代わりの何かをするかも。』くらい考えんだよ。」

「わ、わかってるよ!
だから…!」


麻はカバンからなんかのメモを取りだし、
俺の手に握らせた。


「これ、予知夢で見たこと。
カラオケが終わったときに開けて。」


四谷さんと大連は俺たちの話を軽く聞き流し、
別の機械を見て楽しそうに曲を選んでいる。

なんで麻はああいう普通のことができないんだ。


早速俺だけが麻の妄言に付き合わされていることに腹が立ち、
渡されたメモを開こうとした。



「ダメ!!!」


麻は勢いよく俺の手からメモを奪い取り、
いつにない剣幕で俺をにらんだ。