ショートホームルームが終わり、始業式のために体育館へ移動するとき、やっと有希と話すことができた。
仲の良かったグループはバラバラで私と有希だけが同じクラスになれたんだって。
有希と一緒なんて、心強い。
「ねぇ、帆乃香。朝、島田郁人(イクト)と手を繋いで教室に入ってきたよね?」
「えっ? 島田郁人? 誰それ?」
「帆乃香、知らないの? あの島田郁人だよ?」
「あの島田郁人って言われても。知らないよ」
「じゃ、手を繋いでた相手は、誰?」
「あれは、隣の席の人。名前は・・・分からないや」
「はぁー。帆乃香さ、その人が島田郁人だよ。覚えときなよ」
「うん、覚えた。で、あの島田郁人の ”あの” って何?」
「島田の顔、よく見た? かっこいいと思わなかった?」
「顔見てない。かっこいいんだ?」
「やだやだ、この子は。全然イケメンに反応しないって、ありえない」
「男は顔じゃないでしょ、私は気の合う人が好きなの」
「あー、始まった。そんなんだから彼氏ができないんだよ」
「でもさ、告白してくれた人の本当の姿を見ようとは努力してるんだよ」
「帆乃香はモテるからねー。そんなに告白されて、羨ましいぞ!」
「もう、有希ってば! 変なこと言わないでよ」
「帆乃香から誰かを好きになることはないの? 今まで聞いたことないよね」
確かにそうなの。告白されることはあっても、私が先に好きになる人って今までいなかった。
だから片想いって良く分からない。
「どうやったら好きな人を見つけられるんだろう」
「帆乃香はこんなに可愛いのにどうして彼氏ができないんだろうね。この学校の七不思議だよ。帆乃香はもう少し積極的になってごらんよ。そしたらきっとこの先素敵な出会いがあるよ。焦る必要はないけどね。」
恋愛上級者の有希の言葉を聞いて、自然と好きな人ができるまでは今のままでもいいんだなって。
なんだかホッとした。
始業式が終わり、再度クラスに戻ってきた。
私は隣の席の島田郁人くんをじーっと観察する。
なるほど、確かにかっこいいかも。
でも、どこかで見たよね。んーーーーっと。
「あっ! 今朝の駅で!!」
私は島田くんをどこで見かけたのか思い出した。
「は? 急に何?」
私が島田くんを指さして声を発したので島田くんがびっくりしていた。
「島田くん、今朝、駅のホームで私と目が合ったよね?」
「あぁ、告られてマヌケな顔してるの見てたわ」
「ま、マヌケって。ひどいっ! あの時なんで助けてくれなかったの?」
「何をどう助ける?」
「まぁ、そうだけどさ。あれ? あの時間に島田くんは駅を出たのに何で私と同じ時間に学校の玄関にいたの?」
「知るかよ。マヌケな顔が見たかったからじゃねーの」
「島田くんって優しいんだね。待っていてくれたんだ」
私は悟った。あの告白を受けた私が遅刻するかもしれないから待っていてくれたんでしょ?
「ばっかじゃね。自意識過剰」
そう言って島田くんは私に背を向けてしまった。
そんな島田くんの顔が赤くなっていたなんて全然知らなかった。